ファンタスティックフォーチュン2 2次創作 

アロランディアの凶星

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15話 海神
 
 あれから一体、幾千の夜を、幾千年の星霜を経てきただろう。
 それは生きながらの埋葬だった。死のような静寂と、死のような冷気だけが、世界の全て。
 生まれ落ちた時から、片時も離れず側にいた『半身』ともいうべき彼女が今はいない。共あるのが自然であり、共に歩むのが当然だったあの少女は、彼を置いていずことも知れぬどこかに去ってしまった。
 その愚行に憤慨し、荒れた時期もあったが、今はただ胸に大きな穴が開いたような寂しさが彼の身を蝕んでいた。
 積もっては吹き飛ぶ塵芥のような現世の流れの中で、彼女だけが尊く、絶対のもの。何百年経っても、その記憶は風化しない。目を閉じれば鮮明に思い出すことができる。この世に二つとなく尊く、愛おしかった……彼女の笑顔。
『私はあの娘が守り抜いてきた人の子たちを、もっと信じてみたいと思うの。滅ぼしてしまうなんて悲しいことよ……』
 愚かしいほど純粋で、慈愛に満ちたその言葉。彼が言下にそれを否定すると、彼女は悲しそうに首を振った。
『じゃあ、もしも私が人間の世界で幸せをつかめたら、あなたも人間を愛してくれる? それができなかったら、あなたの言う通りにするわ』
 あの時、彼女はそのような賭を持ちかけてきた。結果などわかりきった愚かしい賭だった。
 エーベが姿を消した後、人間が築いたのは、秩序も正義も無くただ相対的な力と力の争いだけが無限に続く社会だ。彼らは、互いに憎悪しあい同族で殺し合いを続けたばかりか、森林を伐採し、海を汚し、他の生物を乱獲した。その底なしの欲望によって、さまざまな生命が苦しめられている。
 そんな人間の世界で彼女が幸せを掴め訳がなかった。彼女の幸せとは自分と共にあることだ。彼女も、すぐにそのことに気づき、人間に絶望した上で戻ってくるだろう。
 そう考え、彼は提案を受け入れた。賭けに勝った後は、再びこの星を二人だけの楽園に──青い海と空の星に戻すつもりだった。
 だが、百年経っても、千年経っても、少女は戻ってこなかった。寂しさは焦りに、焦りは憎悪に変わった。人間ごときに命よりも大切な彼女を奪われたのだ。
「ボクはね。君と二人だけで居られればいいんだよ……」
 もはや彼女との賭など、どうでも良かった。例え人間すべてを滅ぼしてでも、彼女を取り戻すことができればそれで良い。彼女が泣くことになっても構わない。あるべき世界に、自分と彼女のだけの理想郷にこの星を返すのだ。
 人間へと転生を続けるあの娘を取り戻す一番確実な方法は、人間という種族を絶滅させてしまうことだった。そうすれば、彼女はもはや人間として暮らすことなどできなくなり、人間に固執する必要もなくなり自分の元に帰ってこざるをえなくなる……
 そこまで考えて、ふと彼の脳裏に別の少女の顔が浮かんだ。長い栗色の髪をした孤児の娘、マリン=スチュワート。
 5年前のあの日、罪深きアルタスの末裔が支配する島を海に沈めようとした時、彼は偶然、マリンと出会った。彼女は、見ず知らずの他人である彼を救うために、誤って崖から海に転落した。他人のために損得勘定抜きで行動できる人間がいることに、彼は少なからぬ感銘を受けた。
 もしかすると、マリンなら人間たちを正しく導けるかもしれない──
 そんな気まぐれから、彼はマリンの遺伝子情報を組み替え、星の娘候補としての適性を後天的に与えた。数年経ち、もしマリンが星の娘となったとき、力に溺れることなく他者をいたわる心を持ち続けることができたのなら、人間を滅ぼすのは、もうしばらく先延ばしにしようと思った。
「そういえば、あとのときブルーという名前をもらったな……」
 彼──ブルーは星の娘の選定が間近に迫っていることを思い出した。エーベ神の力を受け継ぐ星の娘の選定は、ブルーにとって数少ない関心事の一つである。それにマリンがどういう娘に成長しているか気になった。
 しかし、陸はエーベの支配するエリア、ブルーの力の及ばぬ世界だ。そこに干渉するためには、血肉を持った肉体を生成し、そこに意識を封入して擬似的な陸上生物になる必要がある。不自由だが、こればかりは致し方ない。
 ブルーは20歳前後の青年の姿となって、海上に出現した。何もなかった空間にまさしく滲み出るように『出現』したのである。
 とたんに、世界の彼方まで見通せていた知覚がグンと制限され、風の抵抗を身に感じるようになる。裸体を隠すため、空気中の分子を結合させて作り上げた青のローブを纏うと、どこからどう見ても人間としか思えぬ姿となった。
「……うん?」
 その時、彼は不穏な気配を感じて頭上を見上げた。そこに、あってはならない生物を目撃してしまう。
 翼より魔風を噴出させて飛翔する漆黒のドラゴン──
 竜をはじめとする魔獣は、もともとエーベに仕える存在だったが、人間たちが戦争に利用したのをきっかけに野生化し、凶暴化した。その尻ぬぐいにブルーと半身が、わざわざ異界に飛ばして封印したのだが、魔法による召喚や、なにかの弾みで世界の境界を乗り越え、こちら側に現れることがある。
 世界を維持・管理するブルーにとって、生態系を破壊しかねない力を持った魔獣は捨て置けない存在だった。
「……まさか魔王クラスのドラゴンなのかい?」
 大気を司る風の精霊たちがドラゴンの保有する魔力、パワー、肉体構造などの情報を瞬時に収集し、ブルーの周りを飛び回って、その耳元でいたずらっぽく囁く。俗にフェアリーとも呼ばれる彼女らは、情報収集能力に優れており、ブルーの役に立てるのがうれしくてたまらないようだった。
「キングストーンに封じられている魔王が、偶然こちらにやってくることは有り得ない。人間たちがサルベージしたのか……」
 ブルーの中に凍てつくような怒りの炎が灯った。戦闘能力に特化した魔王を呼び出す理由とは、すなわち戦争以外にありえない。
 あの悲劇を再び繰り返そうとするのか? やはり人間は骨の髄まで愚かな存在だ。エーベという管理者がいなければ、どこまでも暴走する。星の娘など、しょせんは人間、やはりエーベの代理人とはなりはしない。
 彼は竜を封印するため波を蹴って飛翔した。
 

「こ、黒龍王さん! も、もう良いです、どこか離島に降ろしてください!」
 黒龍王シグルドバルムは、静かな喜びに包まれていた。
 手の中で、もがき喚き散らす少女に、懐かしい母と同じ匂い、肉体の波長を感じ取っていたからだ。
 自らを母なる上位の存在へと委ね、従属の中に身を置くことは、なによりの至福と安心を彼に与えてくれた。そこには支配に伴う責任も、自ら思考する労力も、能動に伴う主体的行動も必要ない。大いなる支配者が、行くべき正しき道を指し示してくれる。
 竜族は、うら若き乙女を生け贄として何より好むが、そこには女神に近しき純粋性を持った少女への憧憬と、母への母胎回帰願望があった。
 だが、エーベとは違い、人間の少女の美しさは永遠ではない。肉体的にも精神的にも、その純粋性には限りがある。手の中の少女は、ほんの一時咲き誇って枯れる一輪の花のようなものだ。エーベが姿を消した今、真なる忠誠と愛を捧げることができるのは、エーベに近しきこの少女──しかも、彼女が汚れを知らぬ肉体と精神を維持している間だけだった。
 黒龍王はマリンではなく、あくまでエーベに永遠に変わらぬ愛を誓う。マリンへのそれは、あくまで代償にすぎない。マリンと敵対していた葵にも、エーベに近しい波長を感じ取っていたが、マリンの方が相対的にエーベに近似していたため、マリンを救うべく召喚に応えたのだ。
 その時、黒龍王の超感覚が、眼下の海に高密度のエネルギーが収束されていることを感じ取った。
 なにか来る── 
 魔力の噴出を反転させて空中でブレーキを掛けた龍王の鼻先を、海より噴出された巨大な水柱がかすめた。
 一体いかほどの水圧がかかっていたのか、それはダイヤモンドにも匹敵する硬度の鱗を削り天へと駆け抜けた。
「うわっ、冷たっ!? なんですか今の噴水は!?」
 水しぶきを浴びたマリンは驚き、目を白黒させている。
 視線を眼下に向けると、水柱が伸びてきた方向より、青い髪の青年がまるで背に翼でもあるかのように飛翔してきていた。
 一見すると人間のようだが、すぐにその本質がまったく違うものであることに気づいた。エーベの牙として、主に仇なす者たちを滅ぼすべく作られた最強無比たる肉体に戦慄が走った。
 あれはまさか──
 この世界には大地を統べるエーベだけでなく、他にも海と空を支配する双子の神がいた。彼らは強大な力を持ち、時に津波や嵐といった天変地異を起こして人間たちに恐れられた。エーベは彼らと敵対することなく、調和することを望み、人間に対する懲罰的な仕打ちも看過した。彼女の温厚な性格によるところもあるが、二人の神々と闘っても勝ち目が薄く、また彼らなくしてこの星の存続もありえなかったからだ。
「人間も魔獣も、この世界には本来必要ない存在だ。嫌になるね」
 青年──いや、人の姿をした超越者は、龍王に刺すような視線を投げてよこした。
 
 
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自分じゃ、さすがに批評できませんので(汗)。


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ファンタスティックフォーチュン2について。壊れ気味ゲームレビューです(笑)