| ファンタスティックフォーチュン2 2次創作 アロランディアの凶星
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7話 魔の晩餐
魔力を薪として燃え上がる紅蓮の業火。 マグマのごとき致命的な災禍と化し、アクアたちを呑み込もうと殺到してくる。 「……くっ!」 この時、アクアは自分でも驚くほど冷静に魔法障壁の呪式を演算、構築していた。 生命の危機に脳神経が、限界を超えて加速する。 焼き払われる木々が振りまく火の粉、一粒一粒さえ肌で感じられるような感覚。時間の流れが限りなく遅くなる。 早口に呪文詠唱を行うと同時に、アクアはほとんど即興で魔法可変条件への補正計算を終わらせていた。 外部からの攻撃を遮断する魔法障壁が、彼女の腕に抱かれたユニシスを中心に展開する。 「アク……ア!?」 アクアはひるむことなく、全速で目の前の火球に突入する。 片足ではこの火球の群れを避けきれない。ならば、強行突破しかないという判断だった。 ユニシスがくぐもった悲鳴を上げるが完全に無視する。 「……っ!」 突入と当時に視界が焼けた。閉じた瞼の裏側にも届く強烈な光熱が、網膜を焦がす。 圧倒的な熱の猛攻に屈し、魔法障壁に瞬く間に無数の亀裂が走った。 そこから侵入した炎が、アクアの身体に容赦なく牙を突き立て、その身を喰らう。 身体のバランスが崩れ、炎を突き抜けると同時に、地面に転がった。 「あ、あぁあ、あ、アクア、アクア!?」 近くでユニシスが、錯乱した叫びを上げる。 どうやら、彼は無事なようだ。炎が届くことがないよう、ユニシスの周囲の魔法障壁の強度を高く維持していたのが功を奏したらしい。 「ア、アクア、なんで、どうして……!?」 一方、アクア自身のダメージは予想以上にひどかった。 すぐさま起きあがろうとするも、四肢の感覚が極端に鈍くなってしまってしまい満足に動けない。 炎を浴びた肌と肉がドロドロに解け合い、気化した血液が猛烈な臭気を発散している。 しかも、熱で眼球がやられてしまったらしく、あたりは完全な闇と化していた。 「……ユニシス、なに……やって、るの? ……にげるのよ……!」 アクアは唯一満足に動く口で、彼に忠告を発する。 「え? ええ……!?」 ほとんど焼死体同然の少女が口をきくとは思わなかったのだろう。ユニシスはろうばいするばかりで、その場から動く気配がない。 「……バカね、いいから、はやくいくの……!」 頭が沸騰しそうないらだちにはアクアは語気を荒上げた。 グズグズしていたら、魔獣に殺されるということがわからないのだろうか? 「……くぁ!?」 次の瞬間、彼女の口から飛び出したのは驚き混じりの悲鳴だった。 分厚い鉄板を叩きつけられたような衝撃が全身を貫き、腹部から下半身にかけての感覚がごっそりと無くなる。 タンパク質の焼ける異臭に混じって、濃密な獣臭が鼻を突いた。 顔に吹き付けられる不快な熱い風。それが獲物を前にして興奮する獣の吐息だと気づいたとき、アクアは魔獣に踏みつけられていることを悟る。 「こ、この……!」 自分の身体のすぐ上、息がかかるほど近くに魔獣の牙が迫っている。なまじ目が見えぬために、その恐怖は筆舌に尽くしがたかった。 アクアは急速に再生しつつあった右腕で、自身を踏み砕いた魔獣の足を殴りつける。 だが、マウントポジションを取られた状態では満足に力が入らず、微動だにさせることができない。 「この、この、この!」 もはや、なんの計算も無く、アクアは遮二無二に両腕を振るった。 それはクモの巣に捕らわれた蝶さながらの、むなしい抵抗だった。 力加減を間違えれば、たやすく人体を壊してしまう怪力も、転がされた体勢では満足に発揮できない。 その時、眼球の復元が終わったらしく、唐突に視界が開けた。 「……ひっ、ああぁあ!?」 同時に、目に飛び込んできたのは、自らの右腕に喰らいつく獰猛な大口だ。 一瞬の圧迫感の後、細枝でも折るように腕が食いちぎられた。そのままバリバリと、魔獣が音を立てて咀嚼する。 身体の一部を喰われるという異常体験にアクアの恐怖は一気に臨界点を突破した。 いままでこらえていた涙があふれ出し、口から悲鳴が迸る。 「せ、せんせい助けて!」 しかし、怯える少女をあざ笑うかのように、魔獣は彼女の左腕にも牙を突き立てる。 さしたる抵抗もなくあっさりと、左腕がもぎ取られた。 それは肉体はおろか、精神までも徹底的に打ちのめす圧倒的な暴力だった。 肉体的苦痛が無いことなど、なんの救いにもならない。頭の中が絶望一色に塗り替えられ、心が狂気に汚染される。 「やめ、やめて……!」 アクアはなんとか、この狂気の晩餐から逃れようとするも、身体ががっちり押さえ込まれているため微動だにできない。 もはや、逃れることも一矢報いることも不可能だ。 そう悟った瞬間、とうとう心が折れた。 「うあ! ああぁあ!」 泣き叫ぶ彼女は、ただ蹂躙されるだけの生け贄に成り下がる。 「あ、ああ、アクア……!」 一方、ユニシスは恐怖に顔面崩壊を起こし、顔をグシャグシャにしながら義妹が解体されるのを眺めていた。 逃げることも、アクアを救うことも、神殿に助けを呼ぶこともできず、その場にとどまっている。 オォオオオ……! 魔獣は、ことさら恐怖を煽るかのようにアクアの胸に爪を突き立てようとしていたが、唐突に動きを止めた。 赤い目を瞬かせ、口を動かすのも止めて彼女を見下ろしている。 生物の範囲を逸脱したアクアの生命力にいまさらながらに驚いているようだった。なにしろ傷を与えた次の瞬間には、骨と筋肉繊維の束が伸びだして組合わさり、寸分違わぬ肉体組織が再生されていくのだから無理もない。 人間の形をした人間でない何か。初めて遭遇した未知の存在に、魔獣も戸惑っているのだ。 なんらかの反撃を試みるなら今がチャンスだったが、いったん恐怖に屈服したアクアの身体は強張り、戦意はとうに消失していた。 もう、この暴虐の化身に立ち向かっていくような勇気など、欠片も残っていない。 彼女は、ただ幼児のように泣きじゃくりながら、身をよじるだけだ。 「せんせい、こわいよ……!」 アクアの胸中に浮かぶのは、もう会うことなど永遠に叶わぬであろうヨハンの顔だ。 目の前では気を取り直した魔獣が、彼女をひと呑みにしようと大口を開けて迫っている。 その暗い口腔の奥は、そのまま冥府へと続いているかのようだった。 恐怖に目を閉じたアクアは、ヨハンの幻影にすがりつき、それ以外の一切のものを意識から閉め出す。 「不滅なる燃焼よ……!」 その時、落雷のごとき轟音が炸裂し、閃光が瞼の裏を漂白した。 何事かと目を剥けば、魔獣の三双頭の首の1つが消し飛び、焼けこげた傷口から噴煙が上がっている。 「ケロベロス……まだ幼生のようですが、これほどの魔獣が現世に現れるとは……」 続いて夜の森に響いたのは、場違いなまでに落ち着き払った感嘆の声だ。 「すばらしい。できれば、サンプルとして生け捕りにしたいところですが、そういうわけにもいきませんね……」 「せんせい!?」 星の娘候補ではなくなったが、気まぐれな幸運の星はまだアクアを完全に見捨てたわけではなかったようだ。 闇を見透かす彼女の視覚が捉えたのは、対魔狙撃砲『メルカバー』の砲身を構えたヨハンの姿だった。 彼は、魔獣が木々をなぎ倒して作り上げた『獣道』に忽然と立っていた。 幻や妄想では有り得ない。 言うべき言葉がいくつも胸に浮び、ごちゃ混ぜになって収集が付かなくなった。 絶望に向かっていた心のベクトルが一気に反転し、全身の細胞1つ1つが喜びに打ち震える。 「……おそいわよ、おそいわよ、せんせい……わたし、食べるのはいいけど、食べられるのはすきじゃないのに……」 もっと気の利いた皮肉でも言おうと思ったが、結局、声として出てきたのは格好の付かない涙声だった。 「……すみません。アクアさん。帰りが遅くなりました……」 ヨハンはすまなさそうな微笑を浮かべると、射殺さんばかりの目で魔獣を睨み付けた。 「さて……私の弟子を傷つけたこと、死をもって償いなさい」 死刑宣告と共にメルカバーの砲身を中心にドーナツ状の魔法陣(エイリアス)が幾重にも現れ、歯車のように回転する。 発光するエイリアスは、さながら夜の森を彩る光の花だ。 ォオオオオオ!! 魔獣の雄叫び。生きとし生ける者、すべてを竦ませるような凶音と同時に、いくつもの魔法が同時起動する。 消し飛んだ首の肉がイソギンチャクのようにのたくりながら、盛り上がり、欠損した頭を再生していく。 同時に、残り二つの首の口腔から、光の矢がヨハンに向けて打ち込まれた。 「……無駄です」 しかし、飛翔するマジックミサイルは、ヨハンに届く直前で急速に輝きを失って掻き消える。 彼を守る強力な魔法障壁の力場にエネルギーを奪われ、消滅したのだ。 「天の威、地の威、王の威……」 メルカバーの周囲の魔法陣が激しく明滅し、エネルギーの余波が紫電となって飛び散る。膨大な魔力を注ぎ込まれた呪式が高速起動し、圧倒的破壊力の収斂を開始していた。 魔獣も、ヨハンがとんでもない規模の攻撃を仕掛けてくることを悟ったのだろう。 そうはさせまいと攻撃魔法を無差別に発動させる。炎や冷気、雷が雨霰となってヨハンに降り注いだ。 「せ、先生!?」 大地を抉り、大樹を吹き飛ばす猛攻にアクアは悲鳴を上げる。 だが、次の瞬間には、自分の心配が杞憂だったことに気づいた。 「音と光と時間を超えて、我が手に来れ」 相次ぐ小規模天変地異などまるで意に介した様子もなく、ヨハンは瞳を閉じながら呪文詠唱を続けている。 彼は極大魔法の構築を行いながら、同時に、いくつもの属性に対応した魔法障壁を展開していた。 本来、これほどハイレベルな魔法障壁を同時発動することなど不可能であるが、対魔狙撃砲がそれを可能にしていた。 この魔法デバイスは魔法の効果を何倍にも高める魔法兵器である。 そのため、ほとんど無意識で使えるような基本的な魔法を、上級魔法並に強化することができるのだ。 テロ事件の際では、外界からの魔力供給の受けられない閉鎖状況のため、その力を満足に発揮できなかったが、これは本来、魔獣に対抗するための開発された対魔兵器である。 「青の賢者の言葉に翔て、まさしく力と成るように!」 その瞬間、天地が爆裂したような轟音が轟き、森の中に巨大な光の柱が屹立した。 オォオオオ……! 光に包まれた魔獣の身体が波打ち、砂のように溶け崩れていく。 魔獣はいくつもの魔法障壁で必死に防御していたが、そんなモノは紙ぺらほどの役にも立たなかった。 首が、胴体が、足が、尻尾が……身体のあらゆる部位が形を失い、無数の細かい粒子となって、夜風にさらわれていく。 あまりに絶大な力にアクアは声も出なかった。 数秒後、暴虐の化身は、その存在を完全に否定され、死体も残さず消滅した。 「……大丈夫ですかアクアさん?」 ヨハンが、アクアの側に歩み寄ってくる。 『魔獣殺し』という、おとぎ話の勇者にも匹敵する偉業を成し遂げたというのに気負った様子はまるでない。 普段とまるで変わらぬ彼の挙措を見て、安堵感が一気に押し寄せてきた。 「せんせい……」 感極まって、アクアはヨハンに抱きつく。もちろん、前回の轍を踏まぬように力は最小限に抑えた。 ヨハンは目を丸くすると、慌てて自身のマント外して彼女に被せる。 アクアの衣服は相次ぐ攻撃によってボロボロになり、肌が大きく露出してしまっていたのだ。 「せんせい、おそいわよ。ぜんぜん、帰ってこないだもの……!」 「すみません、もっと、早く帰るつもりでしたが、研究に熱中しすぎて……って、ちょっと痛いですよアクアさん!?」 弁明するヨハンの首に、アクアは全体重をかけてぶら下がる。 「わたしをこんなに怖い目にあわせて……この落とし前は、『すとろべりーしゃんてぃでらっくす』くらいじゃ、あがなえないわよ……」 「お、落とし前って!?」 ヨハンは声を裏返しながらも、慈父の包容力で彼女を迎えてくれる。 その温もりに身を任せるだけで、今日1日の疲労が身体の底から抜けていくような気がした。 「そうね……これから、毎週、外食につれていってくれるなら、ゆるしてあげても……いいかな?」 「……それはちょっと……そうだ、ユニ、あなたも大丈夫ですか?」 苦笑いしながら、ヨハンはもう1人の教え子に振り返った。 しかし、ユニシスは俯いたまま沈黙し、返事をしようともしない。 いつもならアクアがヨハンに甘えていると、ユニシスは嫉妬心剥き出しで噛みついてくる。ましてや、尊敬する師に言葉を掛けられて無反応であるなど通常では考えられない。 「ユニ、どうしたのですか? まさか、どこか怪我でもしましたか!?」 異常を察したのかヨハンが慌てた様子で尋ねた。 さすがにアクアも不審に思って、それ以上彼にじゃれつくのをやめる。 もしかするとユニシスは、恐怖のあまり言葉がしゃべれなくなっているのかもしれない。 「ユニシス、もうこわくないんだよ? せんせいもこれから毎週レストランにつれていってくれるって言うし」 「いや、それは……」 顔を引きつらせたヨハンが、慌ててアクアを遮ろうとしたその時、 「……アクア……お前、ほんとうにアクアなのか?」 不安に充ち満ちた声で、ユニシスが問うた。 彼の瞳の奥には、魔獣と相対した時とは全く別種の恐怖が渦巻いていた。 8話 分化と亀裂 「……アクア……お前、ほんとうにアクアなのか?」 いきなりユニシスとの間に、越えることのできない大きな壁ができてしまったような錯覚を感じた。 彼の不信の目が、猛毒の矢のように胸に突き刺さる。 「ユ、ユニシス……あのね……」 誤解を解こうと口を開くも、アクアはそこで大きな矛盾に気づいてしまった。 自分は果たして、本当に以前の自分と言えるのか? この身体は、人間のモノではない。魔獣の膂力を宿した不滅の肉体。 炎で焼かれようと、牙で引き裂かれようと滅びることのない今の自分は、人間などとは呼べぬ存在だ。 ならば、ユニシスの知っているアクアという少女は、もはやこの世のどこにもいないことになる。 「ユニ、彼女は……!」 ヨハンが助け船を出そうとするが、上手い言葉が見つからなかったのか、途中で押し黙ってしまった。 なにをどう説明したところで、アクアが怪物となってしまった事実は変わらない。しかも、ことは国家機密に類することだ。 星の娘候補が実は暗殺され、残りの候補を守るための影武者として蘇ったなどとは、口が裂けても言えないだろう。 「お前の右手……星の娘候補の印を見せてみろよ」 ユニシスはなけなしの勇気を振り絞るかのように、決然と言い放った。 アクアがアクアである証拠を、彼女の手の平の痣『星の印』に求めたのだ。 アクアは鼻白み、一瞬、どうしたものかと俯いた。 彼女の『星の印』は生きかえった時点で、なぜかキレイさっぱり消えていた。 そのためソロイらの手によって、巧妙な偽物の刺青が彫られていた。 ふつうの人間には偽物と見破ることなどまずできないだろうが、ユニシスとは1つ屋根の下で暮らしてきた仲である。 ときおり不可思議な光を放つ手の印を、おもしろがって見せたコトもあるので、なんらかの異常に気づく可能性もあるだろう。 「わかったわよ……ほら、見れば?」 アクアは、動揺する心を懸命に押さえつけ、さもなにげないように右手を差し出した。 うまく彼をあざむくことができれば、いままで通り、これからもずっと兄妹でいられるに違いない。 ユニシスは彼女の手の平を、食い入るように凝視し…… 「や、やっぱりだ……!」 突如、顔を引きつらせて後ろに仰け反った。 「やっぱり、お前はアクアじゃない!」 「え?」 残酷な糾弾の声に、アクアの心臓が凍り付く。 なにかおぞましいモノでも見るかのようなユニシスの目は、明らかな拒絶を表していた。決して、妹に向けるような眼差しではない。 「ち、ちがうよ。なに言ってるの? わたしはアクアだよ……!」 彼女は慌てて弁明した。もはや霧散霧消してしまった絆を掻き集めようとするかのように、両手をばたつかせる。 「近寄るな! 俺の、俺のアクアをどこにやったんだ!?」 ユニシスは、すがりついてこようとする義妹を邪険に払いのけた。 「アクアの手の平の星は、俺がアンヘルの秘術で付けた偽物なんだ! でも、これは違う……俺の付けた印じゃない!」 「ユニ、それは……!」 自棄になって喚くユニシスの口を、ヨハンが慌てて塞ごうとする。 だが、そんなことをしても手遅れだった。彼の言葉は、アクアの耳にしっかり届いた。 「……どういうことなの?」 突如知らされた真実に、彼女は呆然と立ちすくむ。そんなことは初耳だった。 1年前、海で遭難して記憶を失った自分を、ヨハンとユニシスが見つけて助けてくれた。それは、完全な親切心からの行動ではなかったのか? 自分を取り巻く世界の一部に、亀裂が走ったような気がした。 アクアにとって、ヨハンは父、ユニシスは兄のような存在だ。血の繋がりの存在しない擬似的な家族ではあるが、そこに一切の利害関係は無く、温もりと信頼で結ばれていると信じていた。 だが、ユニシスがアクアを故意に星の娘候補に仕立て上げたのだとすれば、彼女の信じていた家族像は、まったくの嘘だったことになる。 「俺と先生が共謀して、アクアを偽の候補にしたんだ! この国での魔法院の地位を確かなものにするために、どうしても星の娘候補を探し出したっていう実績が欲しかったんだよ! 俺たちはあいつを利用したんだ! 親切面して利用していたんだ! 俺はまだ、そのことをあいつに言っていない! 謝っていないんだ!!」 ユニシスは良心の呵責に耐えかねたように、一気呵成に秘密を暴露した。 彼の言っていることを、アクアはすぐに呑み込むことができなかった。理解してしまうことを理性が拒んでいた。 だが、遅延ながらも理解という名の猛毒は、じわりじわりと彼女の心に浸透していった。 この国の人々は、魔法の恩恵を受けながらも、魔法使いを悪魔の手先だとしてひどく毛嫌いしていた。そのため、生活必需品を売らないなどの嫌がらせや、見習い魔法使いに対する暴力事件などもおこっており、とにかく魔法院への風当たりが強かった。 おそらく、自分が魔法院に来る前の住民との軋轢は、もっとひどいモノだったのだろう。 そんな状況を打破するために、星の娘候補を見つけだしたという実績を得ようと考えるのは至極当然ことだ…… そこまで思考してしまったアクアは、嘘だと言ってくれることを信じてヨハンを見上げる。 だが、この世でもっとも信頼していた男は、いたたまれなそうに視線を逸らすだけだ。 「返せ! アクアをどこにやったんだ!? 本物のあいつは今、どこにいるんだ!?」 ユニシスは血も吐かんばかりに絶叫する。 「ユニシス、おちついて……わたしは、わたしよ」 「黙れ! アクアの姿で、アクアの声でしゃべるんじゃない……化け物!」 その一言は、棍棒並みの威力でもって、アクアを打ちのめした。衝撃に目の前が真っ暗になる。 踏みしめた大地が崩落してくような錯覚を覚え、彼女は足下をふらつかせた。 「返せ、返してくれ! 俺のアクアを、俺の大切なアクアを……!」 もう、たまらなかった。いっそ鼓膜を破り、音のない世界に逃げたかった。 いなくなってしまった義妹を求めるユニシスの声は、見えない剣となって深く深くアクアの心を抉る。 一方的に浴びせられる糾弾に、彼女は反論もできず心を閉ざすしかなかい。だが…… 「ぐぅ!? うぅうう……!」 ユニシスはひときわ大きく喚くと、突如、急激な発作に見舞われたように肩を掻き抱いた。 美貌が熱に浮かされたように紅潮し、苦悶に歪む。 「ユニシス……!?」 アクアは血相を変えて彼に詰め寄った。もしや、魔獣から受けた傷が今になって顕在化したのだろうか? 「ユニ!? くっ、これは……まさか、こんな時に……」 両膝をついて喘ぐ彼を見て、ヨハンが気難しそうに眉をひそめる。 「せんせい、ユニシスはどうしたの!?」 「大丈夫ですよアクアさん。怪我とか病気ではありません。これはアンヘル特有の成長現象、性別の分化です。彼は、誰かに恋をし、それに反応して身体が雌雄を決定したのです」 ヨハンの解説にアクアは、ほっと胸を撫で下ろす。 だが、すぐに疑問を感じた。一体、今この状況で、ユニシスは誰を好きになったというのか? 「ア、アクア……」 性別の分化という急激な身体異変に耐えるユニシスは、譫言のようにアクアの名を繰り返している。 いまだ色恋沙汰の経験が少ないアクアだったが、ここまで露骨な態度見れば、女の直感で容易に想像がついた。 彼はアクアに恋をしたのだと…… 「せ、せんせい、ユニシスくるしそうだよ……」 いたたまれず、逃げ場を求めるようにアクアはヨハンを見上げる。 心に氷柱を押しつけられたような痛みが走って、彼を直視することができなかった。 照れてしまったということもあるが、それ以上に残酷な事実が、ユニシスと向き合うことに恐れを感じさせていた。 彼が好きになったのは『人間のアクア』である。決して、今ここにいる『怪物のアクア』ではない。 ユニシスにとって今の自分は愛情を捧げる対象ではなく、愛しい少女を冒涜する穢れた存在でしかないのだ。 「そうですね。文献によるとアンヘル種族の分化現象は、ホルモン分泌や身体構造が急激に変化するため、激しい苦痛を伴うモノのようです。いわば大人になるための1つの試練でして、3日ほどこの痛みが持続するとか」 ヨハンは観察者の瞳で興味深そうにユニシスを注視する。大地の女神エーベの末裔ともいわれるアンヘル種族は希少種で、その分化現象に立ちあえるなど、魔法研究者としては多いに知的好奇心をそそられるものなのだろう。 「……とにかくユニシスを部屋に運んであげよう。ベッドにつれていって休ませてあげないと、このままじゃ、かわいそうだよ……」 アクアは沈鬱な声で進言した。 そう、こんな時でも、ヨハンは魔導への探求を忘れてくれないのだ。一体、彼にとって自分たちと魔法研究、どちらが大切なのだろうか? 「そ、そうですね。そうでした」 ヨハンは目を瞬かせ、慌ててユニシスを担ぎ上げた。
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自分じゃ、さすがに批評できませんので(汗)。
布教活動
ファンタスティックフォーチュン2について。壊れ気味ゲームレビューです(笑)