高得点作品掲載所       東 辰巳さん 著作  | トップへ戻る | 


ホワイトクリスマスに心温まるお話を。

 商店街の一角にある素朴なケーキ屋さん。
 アーケードもない吹きさらしの昔ながらの商店街だけれど、昔なじみのお客さんと、高校が近いせいもあってか、繁盛とまでは行かなくても、食べていけるだけの生活は送れていました。
 素朴なケーキ屋さんのメニューは三つしかありませんでした。一般的なショートケーキ、真っ黒なチョコレートケーキ、ちょっと真ん中がくぼんだチーズケーキ。
 ケーキ屋さんのご主人には貧しいか裕福かなんて関係はありません。ただ、誰かが食べてくれるのが嬉しかったのです。
 だから、種類は少なくても、それぞれの品はご主人が持てる最高の技術を使ったつもりですし、お値段だって高校生にだって毎日買って貰えるように出来るだけ下げました。
 素朴なケーキ屋さんは、繁盛こそしませんでしたが、一週間に一回は来る学校帰りの女の子や、買い物帰りのおばあさん、それに一月に二、三人は来るお誕生日祝いにホールケーキを買っていくお父さんやお母さんに愛されていました。
 お誕生日祝いのとき、ご主人は一生懸命デコレーションしたケーキを作りました。種類はやっぱり三種類しかないけれど、誰かの誕生日に、その誰かが笑顔になってくれることを思って、持てる技術全てを使ってデコレーションをしました。
 それはひょっとしたら大きなケーキ屋さんから見ればどうってことのない、普通のデコレーションかもしれませんが、素朴なケーキ屋さんはいつもよりゆっくりと時間と心を削って、立派なものをつくっていました。

 でも、この間哀しいことがありました。
 毎月四回は必ず訪れてケーキを二つ、といって買っていくおばあさんが来なくなりました。
 おばあさんはいつもこの店で買っていくケーキで、一週間に一度、おじいさんとおやつをしていたそうです。おじいさんが大の甘党で、この素朴なケーキ屋さんのチョコレートケーキが大好きだと言ってくれていたそうです。
 でも、おじいさんが糖尿病にかかってしまったとのことです。おじいさんは甘いものを食べられないので、もう買いにこられませんね、すいません、今までありがとうございました、と謝りに来ました。
 ご主人は、いえいえ、おじいさんを大切にしてくださいね、と言ってあげました。
 おばあさんはその内この商店街からも姿を見せなくなってしまいましたが、ご主人にその理由は判りません。

 おばあさんは大事なお客さまでしたが、それでもまだ贔屓にしてくれる人はいます。
 素朴なケーキ屋のご主人は、元気を出してケーキを作り続けました。
 ケーキ屋さんは繁盛はしていないけれど、毎日のようにお店を覗いていく高校生の子どもたちがいたので、ご主人は寂しくありませんでした。

 その中でも、特別ご主人の印象に残った女の子がいました。
 その娘は、いつもいつも他の子と同じようにケーキ屋さんを覗いてくるのですが、結局お店には入らず、毎日素通りするだけです。
 でも、いつもいつも視線は中に向けられたままでした。
 不意にご主人と目があったりすると、恥ずかしそうに目を背けてさっさとどこかへ行ってしまいます。
 でも、次の日にはやっぱり女の子は店の前を通るのです。
 どうしたことだろう。ご主人は不思議に思って、ある日女の子が店の前を通るのを見計らって声をかけてみました。
「お嬢さん、どうしたのですか」
 すると、女の子はとっても驚いたようで、ひゃっ、と言ってそのまま転んでしまいました。
 ご主人は駆け寄って助け起こしてあげながら、もう冬だからね、地面が凍り付いてるから危ないよ、と言ってあげました。
 その時に気がつきましたが、女の子はもう冬だというのに、マフラーも手袋もしていませんでした。
 ご主人はいつも店に篭もっているので失念していましたが、他の高校生の子どもたちはもうみんな手袋やマフラーをして暖かそうな格好で店の前を通ります。
 でも、女の子は見るからに寒そうでした。
 あいにく昨日は雨だったので、女の子の服もぬかるみで少し濡れてしまったようでした。
 ご主人は、服が乾くまでお店の中にいなさい、中は暖かいから、と言って、女の子を店のカウンターに座らせました。
 お店の中はとっても狭くて、カウンターと言っても人が二人座るスペースと、ちんまりとした机があるだけだったけれど、ちょうどお客さんはいませんでしたし、暖房が効いていたので外よりはだいぶ暖かかったのです。
 女の子は導かれるままに、カウンターに座ってぼぅっとしていました。
 ご主人はあったかい紅茶を入れてあげて、女の子の前に置きました。
 すると、女の子の視線がショウウィンドウの中に置かれているケーキに注がれていることに気づきました。
「どれか食べてみるかい?」
 ご主人さんが問いかけると、女の子はおっかなびっくりした様子で、何度も首を横に振りました。
「だって、お金が……その、なくって……」
 女の子は消え入りそうな声で呟きましたが、目はケーキから離れていませんでした。
 ご主人はにっこりと笑って、どれが食べたいのかな、と訊きました。
 女の子はご主人とケーキを何度も交互に見て、
「そ、その……」
 と言って震える指先で真っ黒なチョコレートケーキを指さしました。
 ご主人はにこにことしながらそれを取りだして、言います。
「さすがお目が高い。このチョコレートケーキはね、大の甘党のおじいさんが大絶賛だったものなんだ」
 女の子は目をぱちくりとさせていましたが、チョコレートケーキを目の前に置かれるとそれに釘付けになってしまいます。
 ご主人は女の子の前に座って、食べてもいいんだよ、と言って勧めました。
「あ、ありがとう……ございます」
 女の子はやっぱり消え入りそうな掠れ声でお礼を言って、フォークでケーキの先っちょを切り分けて口に運びます。
 瞬間、女の子の顔がぱぁ、と輝きました。
「美味しい」
 女の子は思わず出てしまった大きな声を自分で恥ずかしがるように口元を抑えていましたが、ご主人がずっとにこにことしているので、二口目も食べました。
 そうして、すぐにお皿の上は綺麗になってしまいました。
「その……とても、美味しかったです」
 女の子の声は消えそうだったけど、しっかりとそう言いました。
 ご主人はずっとにこにことしっぱなしで、ありがとう、と答えました。
 女の子の服はまだ乾いていなかったので、ご主人と女の子は話をしました。女の子は最初こそぎこちなかったけれど、ご主人と話すうちに、だんだんと慣れてきたようで、すっかりおしゃべりになっていました。
 それも、他の女の子に比べれば、細々としたおしゃべりだったのかもしれないけれど、素朴なケーキ屋さんにはいつもにはない華やかな空気が流れていました。
 なにせ、ご主人には奥さんもいないし、子供もいないのですから。
 この机と椅子だって、たまに来ていたおばあさんとわずかに談笑するためにわざわざ取り付けたものでした。
 ご主人はおばあさんが来なくなって以来、ほとんど誰ともこうして話さなかったので、嬉しくなっていろんなことを話していました。ケーキの作り方や、味の違い、どこをどうしたら生地がふっくらと焼けるか……など、話はほとんどケーキのことでしたけれど。
 なにせ、ケーキ屋のご主人はほとんど店に篭もっているので、それしか話すことはなかったのです。
 だから、自然と話は女の子のことになっていきました。
 今までいつも店を見ているのにどうして入ってこなかったのか。
 ご主人がそう訊いたとき、女の子は若干寂しそうな顔をしました。
 それから女の子の口から紡ぎ出された内容に、ご主人も神妙な顔つきになります。
 訊けば、女の子の家はとても貧乏で、しかも弟が最近ひどい風邪で困っている、とのことでした。
 女の子はマフラーや手袋を買うお金もなく、弟には薬を買ってあげるお金さえない。
 なんでも、母親は深夜までずっと帰らず、父親は随分前に亡くなっているのだそうです。弟の世話をできるのは自分だけで、ここでこうしているだけでも心配だ、と。
 ご主人はとても不憫になって、店の奥から持ち帰り用の小さな箱を取ってきました。
 不思議そうな顔をする女の子にご主人は、弟が好きなのはどのケーキかな? と訊きました。
 女の子はやっぱり悪いですよ、と今度は小さな両手も合わせて首を横に振りました。
 いいんですよ、とご主人は言い、結局女の子が押し負けて、クリームが綺麗なショートケーキを箱に入れてあげました。ついでにチョコレートケーキも入れようとしましたが、今度こそ女の子に拒否されてしまったので、ご主人は渋々ながらも、一切れのショートケーキが入った箱を渡しました。

 ご主人と女の子はこれをきっかけに仲がとても良くなりました。女の子は一週間に一度は必ずお店に訪れるようになりました。そうでなくても、ご主人と毎日挨拶を交わすようになりました。
 女の子は弟を看るために、部活には入っていないらしく、他の生徒達よりも一足早く店に訪れます。
 そうすると、ご主人はチョコレートケーキと紅茶を差し出して談笑するのです。
 始めこそ女の子は恐縮していましたが、そこはやはり女の子。ケーキの魅力と、ご主人が話し相手が欲しかったという旨を聞くと、いつかはお返ししますから、と言いました。
 ご主人は、女の子のケーキを食べているときの幸せそうな顔を見るだけで充分でしたので、何度もそんなことしなくていいよ、と言いましたが、女の子は言って聞きませんでした。
 そうして、女の子はショートケーキが一切れ入った箱を持って家に帰ります。
 外はここしばらくはまた暖かくなってきていて、マフラーや手袋は必要ないぐらいでした。
 最近、女の子はよく笑うようになりました。ご主人のケーキは弟にも楽しんでもらえているとのことです。そのせいかどうかは判りませんが、女の子の弟の容態も少しずつ良くなっているそうです。それを聞くと、ご主人は嬉しくなってしまいます。
 この天気は、まるで女の子や女の子の弟に応えているみたいだな、とご主人は思いました。

 素朴なケーキ屋さんは、特に繁盛しているわけではありませんでした。
 多くの人に楽しんでもらうために、値段は最低限にしていましたし、一番のお客さんだったおばあさんも今はいません。
 頼みの収入源は、学校帰りの子どもたちと、息子や娘の誕生日を祝おうと誕生日ケーキを頼んでくるお父さんやお母さん達でした。
 しかしある日、この素朴なケーキ屋さんだけでなく、この閑静な商店街全体を揺るがすことが起こりました。
 近くに大きなデパートが立つことになったのです。
 デパートの中には、たくさんのお店があり、当然のようにケーキ屋さんもあります。
 素朴なケーキ屋さんには種類は三つしかありませんし、見栄えなんか比べようもありません。唯一値段だけは安いですが、味はきっと熟練のパティシエが作ったものの方が美味しいのでしょう。
 デパートが建ってから、お客さんはとんと来なくなりました。
 それは商店街の他の店でも同じようで、次々とシャッターが閉められていきました。
 素朴なケーキ屋さんは、それでもほんの少しの常連がやってくるので、頑張って続けていました。
 ご主人は、お客さんの笑った顔が見たかったのです。
 だけれども、最近のお客さんは、どこか儚げな顔をしています。とあるお客さんがこう言いました。
「もう、この商店街もほとんどお店が閉まっちゃったしねぇ。お客さんがほとんどデパートのほうに流れてるからしょうがないけど。ご主人も、正直やってけないだろう? 私は安くて美味しいからこっちの方が好きだけど……」
 お客さんの語りにはどこか同情の気持ちが篭もっていたのかもしれません。
 ご主人はそれでもあなたがいるからやっていきますよ、と元気よく答えました。
 お客さんは申し訳なさそうに笑って帰っていきます。
 表に出て、その背中に手を振っていると、びゅう、と吹いた風にご主人は身を震わせました。見上げると、空が灰色に染まっています。そう言えば、テレビで雪が降るかもしれない、と言っていました。大型の低気圧が近付いているので、もしかしたら月末は吹雪になるかもしれないとも。
 ご主人はさむい、さむい、と言いながら店の中に戻ります。
 でも、ふと気づきました。
 最近、女の子が来ていません。
 店の前を通りがかるところすら見ていないのです。
 こういう日もたまにはあるので、特に気にしてはいなかったのですが、よくよく考えれば、今週は一度も姿を見かけていないのです。
 ご主人は不安になりながらも、女の子の連絡先をなにひとつ知らないことを思い出し、どうしようもないことを知って店の中へと戻りました。

 ご主人のお店はもとから繁盛はしていませんでした。
 しかも、デパートが出来てからというものの、すっかり誕生日祝いのケーキの注文も、学校帰りに何か買っていく子どもたちも見かけなくなりました。
 誕生日は豪華なケーキで祝いたいものです。その依頼はすっかりデパートの豪華なケーキを作るケーキ屋さんのほうにいっているのでしょう。
 学校帰りの子どもたちも、いろんな施設があるデパートのほうへ流れていっているのでしょう。
 商店街自体のお店がどんどん閉まっていくのに比例して人も寄りつかなくなっているので、それもしょうがないことなのかもしれません。
 あるお客さんの言葉が蘇ります。
 もう、やっていけないのかもしれない。
 もしご主人がこの店を止めても、今のお客さんはデパートのお客さんになるだけです。お客さんはちょっとお値段の高い、だけれども味も見栄えのいいケーキを食べるようになるだけです。特に損なことはありません。
 そんなことを考えていると、あっという間に数日が経ちました。
 ご主人はこういう日々を知っています。女の子と知り合っていなかった時は、毎日がただの消化作業のように進んでいきました。
 だけれども、女の子と知り合ってからの日々は、毎日が楽しく、輝いていました。
 今、あの娘は何をしているのだろうか。やっぱり、デパートの方に行ってしまっているのだろうか。
 いや、女の子は貧乏だと言っていました。デパートで遊んだり、高い買い物をする余裕などあるのでしょうか。
 それとも、全部嘘だったのでしょうか。
 そう考えると、ご主人はとても哀しい気持ちになりました。
 ふと視線を巡らせると、薄暗いカウンターの後ろにデパートの紙袋があります。
 中には、暖かそうな手袋とマフラーが入っています。今度、女の子にプレゼントしようと思って買っておいたものです。
 でも、女の子が来なくては渡すことさえできません。
 ふと外を見ると、真っ白に染まっていました。
 吹雪いているのか、びゅうびゅうという風の音が聞こえてきます。
 こんな日にお客さんはもう来ないでしょう。
 そう考えてご主人はもう店じまいをしようと外に出ました。途端に強い風と冷たい雪が肌を刺します。
 この前までの暖かな陽気が女の子とその弟の心を表していたのだとすると、この天気は今の自分の心を表しているのかもしれないな、とご主人は思いました。
 そうして、シャッターに手をかけたときのことです。
 背中を誰かにつつかれました。
 ご主人は振り向いて見ましたが、誰もいません。右を見て、左を見て、最後に下を見ると、そこに小さな男の子が立っていました。
 こんな吹雪の中で、マフラーも手袋もつけず、鼻水を垂らしてこちらを見上げています
「どうしたんだい、坊や」
「ケーキ、売って」
 優しく問いかけると、意外な返事が返ってきました。
 ともかく、外は寒いだろうから、とご主人は小さなお客さんを迎え入れました。
「お金」
 店に入るなり、男の子は小さな手を差し出してきました。そこには握られてくしゃくしゃになった千円札がありました。
 ご主人はそれを受け取ると、どれが欲しいのかな、と少年に問いかけます。
 男の子は、ショートケーキに目を奪われているようでしたが、どれにするか決めかねているようでした。
「お姉ちゃんが好きなもの」
 男の子は困ったようにそう言いました。
「お姉ちゃん?」
 ご主人は思わず問い返してしまいました。
 小さな男の子は頷くと、
「今日、お姉ちゃんの、誕生日だから」
 と、とぎれとぎれに答えました。
 ご主人は思わずカレンダーを見てしまいました。店の隅に立てかけられたそれには、二十五日の所に印がついていました。
 この時になって始めてご主人は気がついたのですが、今日というのが、その印の日だったのです。
 印の意味は簡単です。
 あの女の子の誕生日でした。
 ご主人は女の子が来なくなってから、すっかり日にちが経つのを忘れていたのです。
 そして、今目の前にいる男の子を見てみると、確かにあの女の子に似ていました。
「お姉ちゃんはどうしたんだい? どうして、君が買いに来るのかな」
 ご主人は思わず訊ねていました。
 だいぶよくなったとは聞いていたけれど、女の子の弟は確か病気にかかっていたはずです。
「お姉ちゃん、ずっと僕につきっきりで、風邪を、うつしちゃった。それで、ずっと前から、寝込んでる」
 ご主人は驚きました。
 ずっと女の子が来なくなったと思っていたら、彼女は弟を看病するあまり、自分も病気に罹ってしまったというではないですか。
 それで、不憫に思った弟がこうして買いに来たのでしょう。お姉さんの誕生日に。
 きっと、今までお姉さんが持ってきてくれたケーキを食べながらそのケーキ屋さんについて、男の子は話を聞いていたのでしょう。まだ全快ではない体で、こんな吹雪の中を探し回ったに違いありません。
 ご主人は冷たくなった男の子の手をしっかりを握ってあげました。
「お姉ちゃんはね、うちのチョコレートケーキが好きなんだ。なんたって、大の甘党のおじいさんが大絶賛だったものだからね」
「じゃあそれー」
 男の子は無邪気に微笑むと、真っ黒なチョコレートケーキを指さしました。
 しかしご主人は、男の子指の先にあるものを選ばず、その下に置いてあるホールのものを選びました。
 大きな大きなチョコレートケーキです。
 それを、いつもよりもずっと大きな箱に慎重に詰めます。
 そこで思い出したように、冷蔵庫からチョコレートでできたカードを取りだして、箱の中に入れておきます。誕生日おめでとう、とホワイトチョコレートで書かれた文字が黒いケーキの上で輝いて見えました。箱に蝋燭も貼り付けて、しっかりと封をします。
 ご主人はにっこりと笑うと、男の子にはちょっと大きすぎるぐらいに見える箱を渡しました。男の子は、ウィンドウの中にある値札と、自分の持っているものを見比べて、「おかねたりない」と言いました。
 でもご主人は、足りてるよ、と言いました。
「誕生日の人にはおまけしているんだ」
 もちろんそれは嘘でしたが男の子は疑いもせず頷いて、元気よく「ありがとう」と言いました。
「あ、ちょっと待ちなさい」
 待ちきれなかったのか、早くも背を向けて返ろうとする男の子をご主人は呼び止めます。
「今日が何の日か知っているかな?」
 振り向いた男の子にご主人はそう問いかけました。男の子は首を捻ってうーんと唸ります。
 ご主人は笑って、
「今日は、十二月の二十五日だよ。クリスマスだ」
 と答えました。
 そうして、男の子の首にマフラーをかけてあげます。
「メリークリスマス。これは、おじさんからのクリスマスプレゼントだ」
 男の子をふわふわの毛糸が包みます。うわあ、と男の子がぱあっと表情を輝かせました。
「おねえちゃんにはこっちを渡してね」
 男の子に、デパートの袋を渡します。マフラーは弟にあげてしまったけれど、手袋は残っています。姉弟仲良くつかってね、とご主人はいいました。
「うん、ありがとう、おじさん!」
 男の子は今度こそ店を飛び出していきました。
 その時には不思議なことに、吹雪はすっかりとなりを潜め、しんしんと雪が降っているだけでした。
 ご主人は、心がとっても穏やかになっているのを感じました。
 そして、空を見て呟きます。

「綺麗な、ホワイトクリスマスだ――」


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