高得点作品掲載所     安部稔さん 著作  | トップへ戻る | 


マッスルプリンス

 俺は春休みの午後、家でごろごろしながら、テレビを見ていた。俺が何も考えずにごろごろする事に、幸せをを感じていると、そこに、ピーンポーンと、まるで俺の幸せを壊すかのごとく呼び鈴がなった。
「誰だよ、まったく……」
 俺はめんどくさいなと思いながら立ち上がった。まあ、実際めんどくさいのだから、しょうがない。
 だいたい、家にいきなり訪ねてくるのは、ほとんどが訪問販売などの、どうでもいい相手ばかりである。
 知り合いが家に来るのが少ないのは、友達が少ないとかでは決してない。……たぶん。
 そんなことを考えながら、玄関に向かった。
 そして玄関の扉を開けると、そこに待っていたのは俺の想像を超えるものだった。
 それは笑顔でこういった。
「私は魔法の国からやってきた、ジェイスと言います」
 思わずドアを閉めてしまった。そう言ったのが美少女なら絵的にまだよかった。美少女ならば、とまどいながらもドキドキの同棲の始まりなどという妄想が今頃始まっていただろう。
 ……だが言ったのは180cmくらいのマッチョな兄ちゃんだったのだ。異様なまでの筋肉が服を着ていてもわかるくらい自己主張している。
 新手の宗教勧誘か?
 昔、宗教勧誘に来たおばちゃんを、言葉で泣くまでいじめて追い払ったことがあったが、今回の相手にそんな事したら、あの筋肉で殺されそうだった。
 いやいや、もしかしたら訪問販売員で、魔法の何々系グッズを売りつけ、買い渋ったらあの筋肉で脅すのかもしれない。
 それともただの変な人か……。
 一度ドアを開けてしまったので居留守は使えない。あれがどんな人間にしろあのまま放置しておくには危険な気がしたので、とりあえずドアを開けることにした。
 ドアを開けるとやはりそこにはマッチョな兄ちゃんが立っていた。
 ドアを開けてみたものの、何を言えばいいのか考えていると、ジェイスと名乗った自称魔法の国から来たマッチョ兄ちゃんが、
「あなたが岩田駿平さんですね?」
「そうですけど。魔法の国から来たわりには日本語上手ですね」
 自分の名前を知っていった事にはつっこまず何故か、思わずそのことをつっこんでしまった。
「それはですね……」
 そう言いながら持っていたでかいバックをあさり始めた。
 出るか魔法の外国語教材セット!?
 そんな俺の馬鹿な考えはジェイスの言葉で一瞬にして否定された。
「あなたのお父上の健四郎さんに習ったんですよ。そしてこれが手紙です」
 そう言うジェイスの手には手紙が握られていた。
「親父に?」
 俺の親父といえば簡単に言うと馬鹿である。四年前「魔法の国を探しに行く」と言って出ていき。それと同時におふくろも家をいなくなった。
 まあ、おふくろもそんな奴と結婚したのだから、かなりの馬鹿だろう。
 しかし、そんな馬鹿な両親をもった俺でも、死んだじいちゃんがかなりの額の遺産を残してくれたおかげで、経済的にはかなり恵まれており、春休みにバイトもせずにぐうたらと自堕落な生活を送っている。
 手紙を受け取って読んでみると、親父独特の汚い字でこう書かれていた。 
『駿平、私はついに魔法の国を発見した』
(……とうとうとち狂ったか)
『そこで私はアームストロングという男と親友になった。実力主義の魔法の国で私とアームストロングは出世し、アームストロングは王となり、私はその補佐をしている。どうだ驚いたか?』
 驚いたな……。親父と同じ思考をもつ奴だらけの国が存在するとは、世界は広い……。
『まあ近況報告はこのくらいにして本題にはいろう。
 アームストロングの息子であるジェイスをしばらく家で預かってほしい。ホームステイか何かだと思ってくれればいい』
『まあ私の秘蔵の酒『極東日没』でも出して歓迎してくれ。ついでに、今現在の私の写真も同封する』
 きしょ!
 写真には親父を取り囲むようにしてマッチョな男達がポーズを決めながら立っていた。そこにはジェイスもいた。やはりポーズを決めて……。何故か親父も四年前とは比べものにならないくらいマッチョになっていた。
 それで手紙の内容は終わっていた。
「これからよろしくお願いします」
 笑顔でジェイスはそう言った。
 なんで俺がこんなマッチョな兄ちゃんと同居しなけりゃならんのだ……。
 せめて美少女との同居なら、風呂場で偶然はち合わせるなど、うれしいハプニングなどが期待できるが、この兄ちゃんとそんなことが起これば地獄でしかない。
 そもそもマッチョな兄ちゃんが魔法の国からやってきたって設定自体が間違ってる。
 こうして俺がこの時想像していた以上の地獄の同居生活が始まりを告げた。

1.オリジナルカクテル

 夕食後、テレビをぼ〜とみていた俺に、ジェイスが声を掛けてきた。
「極東日没を、飲ませてくれませんか?」
「え!?」
 その言葉に俺は激しく動揺した。
「手紙にも書いてたと思うんですが。健四郎さんが、とてもうまい酒だから是非飲んでみてくれと、言ってたから、楽しみにしてたんですよ」
 ジェイスは楽しみで待ちきれないといった表情で俺を見つめていた。
「えっ、あ〜、……じゃあ取りに行ってくるから、ここで待っててくれ」
「はい、楽しみにして待ってますよ」
 満面の笑みでジェイスは俺に言った。
「楽しみにしててください」
 今までの人生で最高の作り笑いを浮かべて、俺は台所に向かった。
「……どうしよう」
 空き瓶を前に力無く呟いた。もちろんラベルには極東日没と書かれている。
 遡ること半年前、なるべく自炊するようにしていた俺は、昼食にうどんが食べたくなり、片方の鍋でうどんを茹で、もう一つの鍋で麺汁をつくろうとした。だが俺はめんつゆ造りに必要な、料理用酒が切れていることを忘れていたのだ。うどんの汁にこだわりを持っていた俺は料理用酒を入れないうどんの汁などありえなかった。
 俺は焦った。
 もう、うどんは茹でてしまっている。急がなければ、うどんがのびてしまう。
 その時、目に付いたのが親父秘蔵の酒『極東日没』だった。
 そんなことが何度もあるうちに極東日没は料理用酒の代わりに消えていった。
 今や瓶には洗われてしまったっために極東日没の香りすらない。ラベルだけが過去に極東日没があったことをしめしている。
 事情を説明して素直に謝るか? ……楽しみにしててくださいと言った手前、それは言いずらい。
 この瓶に、違う酒を入れてごまかすか。うん。これはなかなか良い考えだ。向こうは極東日没を飲んだことが無いのだ。中身が違っていてもばれることはない。
 早速代わりになる酒を探そうとした瞬間重大な問題に気がついた。
 代わりになる酒がない。
 俺は酒をまったく飲まないし。親父秘蔵の酒シリーズは料理用酒の代わりになって、消えていった。
 だめか……。そう思った俺の目にあるものがうつった。
 料理用酒アルコール分14%未満1g200円。
 手にとってラベルの成分を見ると、そのまま飲んでまずいものは全くない。当然といえば当然だ。
 おちつけ、おちつけ俺。さすがにそれはまずいだろう。1g200円だぞ?
 そんなことを考えていた俺に料理用酒の隣になかなかいかす奴が目に付いた。
 本みりんもち米100%使用アルコール分12,5%以上13,5%未満。
 混ぜるか。
 混ぜるとき酢が近くにあったのでついでに入れてみる。
 それを何食わぬ顔でジェイスに差し出した。ジェイスは手にとり、実にうまそうに、……飲んだ。
「これは今まで味わったことのない味ですね〜」
 そりゃそうだろう。味わったことがあった方が驚きだ。
 酢を入れてからも、いろいろな成分が増えていった岩田駿平オリジナルカクテルを何故かうまそうに飲むジェイスを見ながら、心の中でつっこんだ。
 自分で作っておいてなんだが、あれが飲めるとは……。あの体の異常な筋肉が、舌や脳を冒してしまっているのかもしれない。
「ジェイスさんは魔法の国から来たんですよね?」
 ジェイスは飲む手を止めて、
「そうですよ」
「じゃあ魔法が使えるんですか?」
 これが一番気になっていた。親父が手紙で魔法の国を発見したと言い切っていた。そこまで言いきるくらいなのだからおそらく何か根拠があるのだろうと考えていた。さすがにうちの親父でも、なんの根拠もなしに信じたりはしないだろう。
 ・……たぶん。
「ええ、もちろんです。本当は国の人間以外には見せてはいけないのですが、駿平さんには特別に見せてあげましょう」
 ジェイスはそういって立ち上がり、庭に出ると、木の前に立つと目をつぶりなにやら集中し始めた。

 マジックナックル!!

 ジェイスの叫びと共に放たれた拳が木に当たった瞬間、木は拳の当たった場所からへし折れ、その長い寿命に終止符をうたれた。
 すごい・・・・・・が、全然魔法と関係ねえ!
 そもそも筋肉質の男が木を殴ってへし折ったところで誰も魔法だなんて思う奴はいない。
 ジェイスは少し得意げに、
「どうですか?」
「すごいですね」
 とりあえずそう答えた。すごいのは確かだし本当にそう思う。
 しかしこんな奴を魔法使いと信じる、親父になにか期待するのはもうやめようと心に誓った。

2.トラップ

 ジェイスが住み着いてから一週間が過ぎたある日のこと。
 ソファーに座りながらジェイスのことを考えていた。
 ジェイスは思ったよりも礼儀正しく、王子のくせに家事の手伝いも、よくしてくれるために、明らかに一人の時より楽になっている。自称魔法使いということあの 異常なまでの筋肉以外は、全然まともだった。
 しかし、何しに来たんだろうあいつは? 初めは旅行か何かと思っていたが、観光をしている様子もない。まあ、どうでもいいか。
 俺は考えるのをやめて昼寝を開始した。
 
 昼寝から目が覚めると、目の前には見知らぬ男が立っていた。
 誰だ?
 不審に思いソファーから立ち上がろうとした。その時、俺はそのままソファーから転げ落ちた。
「わぶっ」
 いつの間にか手足が縛られており、うまく立ち上がれなかったのだ。おかげで床に顔を打ちってしまい、情けない声を上げてしまった。
「目が覚めたようだな」
「あ〜、なんで俺手足縛られてんの?」
 男は俺が冷静だったのに少し感心して、
「君は人質になってもらう」
「人質?」
「ああ、君に恨みはないが王子を捉えるための人質になってもらう」
 あいつ本当に王子だったのか・・・・・・。人質にされたことより、そっちの方が驚きだった。親父の親友の息子という部分以外は、親父とその一部の変人達の妄想だと思っていた。
「来たか」
 そう言って男が向いた先には、散歩から帰ってきたジェイスがいた。
「何者だ貴様?」
 そう言ったジェイスの雰囲気はいつもとどこか違っていた。
「忘れたか? 前王子である私を」
 言われてやっと思い出した素振りを見せると、
「何かと思えば逆恨みか、魔法の国は実力主義。お前の父は私の父に負けたのだ。 魔法勝負で敗れた王は、王座を明け渡すのが慣わしのはずだ」
「ふざけるなっ! 魔法勝負で禁止されている直接攻撃で父を倒し、ただの格闘技をマッスルマジックなどと言い張り、無理矢理勝ちを認めさせておいて、挙げ句の果てに逆恨みだと? ふざけるのも大概にしろっ!」
 魔法の国でもジェイスのあれは魔法と認められていないらしい。 
 まあどっからどう見ても、ただ殴っただけだったしな。
「それにしても周りが敵だらけの、この時期に護衛を一人も付けず一人で旅に出るとは、馬鹿か貴様」
「今回の旅は、我々に不満を持っている連中をいぶり出すための、罠だったのだ」
「それで人質を取られ追いつめられていては、話にならんな」
 まったくだ。おかげで俺まで巻き込まれていい迷惑である。
「今人質に取っている相手が誰だかわかっていないらしいな」
「何?」
「その男は岩田健四郎の息子だ」
「馬鹿な! あの粛正の鬼の息子だと!?」
 ……魔法の国で一体何をした親父よ。
「今だ、駿平!」
 ジェイスが叫ぶ。
「しまった!」
 何がしまったのか、前王子はすごい勢いで拘束されている俺の方に振り返った。
「どした?」
 俺が拘束されたままの姿を見ると、元王子はかなりの間抜け顔を見せた。
「あ」

 マジックラリアット!!

 だまされたと前王子が気づいたときには、一瞬で間合いを詰めたジェイスのラリアットが、顔面に炸裂していた。
 全身筋肉の固まりの様な男のラリアットを受けて、ひょろひょろの体だった前王子の体は、まるで木の葉のようにくるくると回転しながら、家具へとつっこんでいく。
 しかし、こいつ技の前にマジックと付けば許されると勘違いしてないか?
 とりあえず些細な疑問はおいといて、家具につっこんだまま意識のない名も知らぬ前王子の冥福を祈ると、縛られたままでジェイスの方に向き直った。
 よく考えれば、こいつの国の反王派というゴキブリを捕まえるためのゴキブリホイホイ代わりに、我が家は使われたということか。
 ジェイスは俺の手足の拘束を解くと、
「これからもよろしくお願いします」
 そう言って、手を差し出してきた。
 こいつ、反王派を一掃するまで家にいるきか……。
「さっさと帰れ筋肉馬鹿め!」
 と、口に出すのは怖いので、とりあえず心の中でそうののしり、かなり引きつった 笑顔で俺は握手を交わした。


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